ウィルコムは総合家を目指せ
優秀なキャリア
突然ですが、「優秀なキャリア」とは何でしょう?
これは何をもって「優秀」とするかによって、答えが変わってくると思います。
・契約者数が多い。
・端末が高機能。
・エリアが広い。
・音質が良い。
・通信速度が速い。
・コンテンツが豊富。
・端末が安い。
・通話料が安い。
etc・・・・・
「優秀」とする根拠はいろいろある訳です。
土管屋
ウィルコムの優秀さが語られる時、たいていその根拠は「インフラ」になることが多いようです。
・高性能なアンテナ。
・電波に関する技術力。
・電波特性を計算し尽くした基地局の配置。
・それに裏付けられた音質の良さ。
たいていこのあたりが取り上げられます。
逆に言えば、これらインフラ以外、つまり端末自体の性能やコンテンツ、企画方面は苦手ということになります。
「それでいいジャン!公的な性格を帯びたインフラサービス業なんだから、優秀な土管屋で十分!」という声もあれば、
「それでは良くない!これからのキャリアは土管屋だけに留まっていては勝てない!」という声もあります。
「キャリアは土管屋に留まるべきか否か」という議論は昔からありましたが、その答えが出る前に、強制的に議論が打ち切られた感じがします。
総務省によって、です。
垂直統合型と水平分業型
従来のケータイビジネスは「垂直統合型のビジネスモデル」とされています。
これはドコモやauやSoftBankやウィルコムやイーモバなどの「キャリア」が
・アンテナを立てて
・端末の仕様を決めてメーカーに作らせて
・端末代金を決めて
・通話料を決めて
・コンテンツ利用の際の認証や課金の仕組みを作って
・課金をして通話料と合わせて回収する
これだけのことを全部やっているということを指します。
総務省は、これらの役割をバラバラに分解して開放しようとしています。
そうすることで、それぞれの役割を得意とした異業種が参入し、ケータイビジネスはもっと活性化する。
そんな目論見があるのです。
これを「水平分業型のビジネスモデル」と言うそうです。
例えば時々聞く「MVNO」というのもそうです。
日本通信は「キャリア」としてb-mobileというケータイサービスを行っていますが、日本通信自体はアンテナやネットワークなどのインフラを持っていません。
これらインフラはウィルコムが提供し、日本通信はその上に乗っかる形で、得意としているサービスを提供しています。
もちろんインフラの使用料を、ウィルコムに払います。
このようなビジネスモデルが「水平分業型」です。
総務省は、今後このようなビジネスモデルを推進しようとしています。
追い風?
この総務省の方針は、ウィルコムにとって追い風のような気がします。
すなわち、得意としているインフラ業(土管屋)に徹すれば良いのです。
その土管の中を流れるサービスは、それを得意としている業種や企業に任せてしまえば良いのです。
「インフラが優秀なウィルコム」は、水平分業型のビジネスモデルにおいて、他キャリアより抜きん出ているのだから・・・!!
しかし、です。
本当に追い風でしょうか?
専門家と総合家
垂直統合型のビジネスモデルを解体して、水平分業型のビジネスモデルを構築する。
分解されたそれぞれの役割は、それぞれを得意としている「専門家」に任せてしまう。
一見、とても綺麗に聞こえます。
しかしここで忘れていけないのは、垂直統合型であろうと水平分業型であろうと、
最終的にはトータルでひとつのサービスでなければならないという点です。
すなわち、全体を見ることができる「総合家」が必要とされているのです。
Yahoo!コンテンツストア
例を挙げましょう。
Yahoo!コンテンツストアというサービスがあります。
Yahoo!(現在のSoftBankモバイルのポータルとは異なります)が独自に提供した、
ケータイコンテンツの「配信」「認証」「課金」の機能(プラットフォーム)です。
コンテンツプロバイダは、Yahoo!コンテンツストアを通すと
・DoCoMo・au・Vodafone(当時)のどのキャリアの端末向けにも、同じコンテンツを配信できる
・会員認証はキャリアではなく、Yahoo!がYahooIDを使って独自に行ってくれる。
・情報料はキャリアではなく、Yahoo!がクレジットカード決済などで回収代行してくれる。
・ユーザーはキャリアを乗り換えても、これまで使ってきたコンテンツを同じように使ってくれる。
というメリットがあります。
ケータイコンテンツの「配信」「認証」「課金」を垂直統合型のキャリアビジネスから引き剥がし、
ID認証や回収代行の実績があるYahoo!がこれを行う。
水平分業型のケータイビジネスを先取りしたものと言えます。
しかしこのYahoo!コンテンツストア、いまいち盛り上がっていません。
なぜでしょう?
SoftBankがVodafoneを買収したため、Yahoo!コンテンツストアに注力する必要がなくなったから・・・という面もあります。
しかしもっと本質的な問題があります。
キャリアに近いことをしても、結局キャリアではなかったことによる限界があったからなのです。
・YahooIDによる認証ができるよ!
⇒YahooID取得するのメンドイ。キャリアの公式サービスなら何もしなくてOKだ。
⇒YahooIDと端末の紐付けは、結局キャリアが発行しているユーザーIDや端末の製造番号使っているよね?キャリア頼みジャン
⇒Yahoo!コンテンツストアそのものは「勝手サイト」だからSoftBankの一部機種ではユーザーIDが取れないから非対応扱いだよね?
⇒ドコモは製造番号通知のたびに確認のポップアップが上がるよね?つまりYahooIDと紐付ける処理のたびにポップアップの嵐!!
・PC向けYahooの回収代行の仕組みが使えるよ!
⇒クレジットカードとか銀行とか手続きメンドイ。キャリアの公式サービスならボタン1つでOKだ。
インターフェース
どうしてこのようなことになったのでしょう?
これは水平分業化でバラバラになった各役割の間の「インターフェース」の不備があったからです。
もしも、キャリア各社が、ユーザーIDの発行するルールを汎用化されていれば・・・・
もしも、端末メーカー各社が、製造番号通知の仕様を柔軟にしておいてくれれば・・・・
もしも、カード会社や銀行が、オンライン決済をもっと使いやすくしておいてくれれば・・・
そんなYahoo!の「もしも」に、それぞれの専門家が反論するはずです。
キャリア各社「Yahoo!がユーザーIDをどう使うかなんて知ったこっちゃないよ!」
端末メーカー各社「仕様を柔軟にっていうなら、どういう風に使いたいのかまず先に示してよ!」
カード会社や銀行「こっちだって使って欲しいからもっと柔軟にしたいけど、じゃあどうすればいいの?」
これが「水平分業化で専門家が専門分野だけに注力した世界」です。
ウィルコムでも同じ心配ありませんか?
電話機にも、パソコンにも、家電製品にも、クマのぬいぐるみにも、挿したモノを全て電話に変えてしまうはずのW-SIM。
でも私の手元にあるぬいぐるみにW-SIMを突き刺しても、電話機にはなりません。
ぬいぐるみ側に「インターフェース」が無いからです。
水平分業化が進み、異業種参入が増えれば増えるほど、「インターフェース」の重要性が求められるのです。
ウィルコムは総合家を目指せ
Yahoo!コンテンツストアが成功しなかったひとつの理由は、「キャリアでなかったことの限界」によるものです。
ケータイのビジネスモデルが水平分業型になろうとも、「全体を見ることができる」のはキャリアなのです。
従来の垂直統合型ビジネスモデルで得た既得権を守れ、と言っているのではありません。
従来のモデルが分解されるからこそ、キャリアが今まで以上に「全体」を見ないといけないのです。
そうでなければ「水平分業化で専門家が専門分野だけに注力した世界」が待っています。
「総務省の政策は“インフラが優秀なウィルコム”に有利だ」
「水平分業化でウィルコムは土管屋に徹すれば良い」
「コンテンツとかは専門家に任せておけばいい」
これらが誤りであることは明白です。
どこよりも早くMVNOをサポートできたウィルコムだからこそ、
W-SIMを実用化できたウィルコムだからこそ、
総合家を目指すべきなのです。
2008.7.23.resaku
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